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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)8297号 判決 1989年2月10日

原告

高橋光夫

被告

株式会社グリーンキャブ

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自二七三一万四一六七円及びこれに対する昭和六〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自三六一八万一七四八円及びこれに対する昭和六〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

1  日時 昭和六〇年一二月九日午前二時四〇分ころ

2  場所 東京都港区三田四丁目三番一八号先路上

3  加害車 普通乗用自動車(練馬五五き二八七六、以下「加害車」という。)

4  右運転者 被告大野貞夫(以下「被告大野」という。)

5  同所有者 被告株式会社グリーンキヤブ(以下「被告会社」という。)

6  事故態様 原告が、自動二輪車(以下「被告車」という。)で、片側二車線の道路の中央よりの車線を進行中、被告大野運転の加害車が、Uターンのため、右折の合図も出さないまま、急に被害車の進路を妨げる形で右折したため原告車が加害車の右側面に衝突し、原告が負傷した。

二  被告らの責任

1  被告大野は、Uターンするにあたり、その合図をすることは勿論、右方道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、対向車線の車両の動静にのみ気を取られて急な転回をしたために本件事故を発生させたもので民法七〇九条の責任がある。

2  被告会社は、加害車の所有者で、事故のために自動車を運行のように供していたもので自動車損害賠償保障法三条の責任があり、被告大野は被告会社の被傭者であり、被告会社の業務執行中に本件事故が発生したものであるから、被告会社には民法七一五条の責任がある。

三  損害

1  原告は、本件事故により頭部顔面外傷、左頭蓋骨頭蓋底骨折、左視束管骨折、髄液漏、脳挫傷、左顔面挫創及び頭蓋内出血の傷害を負い、東京都済生会中央病院で、昭和六〇年一二月九日から同月二一日まで入院治療を、同月二二日から昭和六一年六月一一日まで通院治療を受け、同月八日症状固定となり、この結果、自賠責保険の被害者請求において、視力傷害(第八級一号)及び神経系統の機能障害(第九級一〇号)で併合第七級が認定された。

2  原告は、前記傷害により次のとおり損害を被った。

(一) 治療費 八八万五三四八円

(二) 入院雑費 一万三〇〇〇円

入院一三日 一日一〇〇〇円の割合

(三) 付添看護費 五万二〇〇〇円

入院一三日 一日四〇〇〇円の割合

(四) 休業損害 三六万二七七二円

原告は、本件事故当時、調理師として稼働し、三四八万四五二五円の年収を得ていたが、本件事故による前記傷害により、昭和六〇年一二月九日から昭和六一年一月一五日までの三八日間休業し、次の計算式のとおり三六万二七七二円の休業損害を負つた。

3484525÷365×38=362772

(五) 後遺症による逸失利益 三〇八三万六一五〇円

原告の年収は三四八万四五二五円であるので、第七級の労働能力喪失率五六パーセント、症状固定時から六七歳までの稼働年数三二年間のライプニツツ係数一五・八〇二六で逸失利益を計算すると三〇八三万六一五〇円となる。

(六) 慰謝料 一一五〇万円

入通院分一五〇万円と後遺障害分一〇〇〇万円の合計である。

(七) 物損 三〇万一二七〇円

原告は、本件事故により購入直後の自動二輪車を大破させられ、その修理に三〇万一二七〇円を要した。

(八) 以上の合計 四三九五万〇五四〇円

(九) 弁護士費用 三〇〇万円

四  損害填補 一〇七六万八七九二円

原告は、本件事故に関し、自賠責保険金から九七〇万九三〇〇円、労災保険金から治療費八八万五三四八円及び休業填補一七万四一四四円の合計一〇七六万八七九二円が填補されている。

五  よつて、原告は、被告らに対し、各自三六一八万一七四八円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和六〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する答弁

一  請求の原因一項(交通事故の発生)のうち1項ないし5項は認め、6項の事故態様については、被害車が中央よりの車線を進行中であつたこと及び原告が負傷したことは認め、その余は否認する。

二  同二項(被告らの責任)については、被告会社が加害車の所有者で、被告大野が被告会社の被傭者であり、被告会社の業務執行中に本件事故が発生し、被告大野が民法七〇九条の、被告会社が自賠法三条及び民法七一五条の責任を負うことは認める。

三  同三項(損害)のうち、1項の負傷内容、入通院期間、症状固定日、視力障害の認定は認めるが、神経系統の障害の認定は一二級の一二である。2項については、(一)入院雑費及び(三)休業損害は認め、その余は知らない。

四  同四項(損害填補)は認めるが、労災保険金は八八万五三四八円と二七万七五四二円である。

五  同五項は争う。

第四抗弁

原告は、自動二輪車の運転経験が浅く、運転技術も未熟で、前方不注視、速度超過のうえ飲酒運転をしていたのであるから、過失相殺すべきである。

第五証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  請求原因一項(交通事故の発生)のうち、1項ないし5項については当事者間に争いはなく、6項の事故態様については被害車が中央よりの車線を走行中であつたこと及び原告が負傷したことについて当事者間に争いはなく、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三六、証人深田恵里の証言、原告本人尋問の結果によれば、被告大野は、加害車を運転していた際、右後方に対する安全確認不十分のまま、第一車線から第二車線に時速約二〇キロ位で進路を変更したため、折から右後方より時速約四〇キロ位で走行して来た被害車前部に加害車右ドア前部を衝突させたことが認められる。

請求原因二項(被告らの責任)については、被告会社が加害車の所有者で、被告大野が被告会社の被傭者であり、被告会社の業務執行中に本件事故が発生し、被告大野に民法七〇九条の、被告会社に自賠法三条及び民法七一五条の責任があることについては、当事者間に争いはないから、被告大野及び被告会社は、各自、本件事故により原告の被つた損害を賠償すべきこととなる。

二  請求原因三項(損害)のうち、1項の負傷内容、入通院期間、症状固定日、視力障害の認定については当事者間に争いはなく、2項については(一)治療費、(二)入院雑費及び(三)休業損害については当事者間に争いはないので、損害は次のようになる。

1  治療費 八八万五三四八円

当事者間に争いはなく、治療費八八万五三四八円が認められる。

2  入院雑費 一万三〇〇〇円

当事者間に争いはなく、入院雑費一万三〇〇〇円が認められる。

3  付添看護費 五万二〇〇〇円

当事者間に争いのない原告の負傷内容、入院期間、成立に争いのない甲第二号証、乙第一一号証、証人高橋和江の証言(第一回)原告本人尋問の結果によれば、原告の治療のため付添看護が必要であり、昭和六〇年一二月九日から同月二一日までの一三日間、一日四〇〇〇円の割合による付添看護費五万二〇〇〇円を要したことが認められる。

4  休業損害 三六万二七七二円

当事者間に争いはなく、休業損害三六万二七七二円が認められる。

5  後遺症による逸失利益 三〇八三万六一五〇円

甲第二号証、乙第一一号証、成立に争いのない甲第三号証、証人高橋和江の証言(第一回)により成立の認められる甲第四号証、証人高橋和江の証言(第一回)、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

原告は、左顔面(前側頭部から頬部)に挫創があり、受傷後意識レベルの低下(仮眠状態)や左視力障害、嘔吐などあり、頭蓋内出血は少量のため、また、髄液鼻漏のため脳挫傷や骨折に対する処置は保存的な措置となつた。左前側頭より頬部に至る挫創瘢痕があるが醜状は著明ではない。左視束管骨折による左神経萎縮、左眼視力は〇・〇一で矯正不能(右眼視力は一・二)、下方視野が僅かに残るのみの視野狭窄、今後見込みなく左眼失明と同等である。神経学的には左視力障害以外特になく、CT上は受傷時前頭葉底部(左)と左側頭葉尖部に脳挫傷を呈していたが現在CT上の異常吸収値は消失している。脳波検査所見は初期検査で左前頭部の徐波混入、速波混入がみられているが、昭和六一年六月四日の検査では正常化している。左視力障害と眼精疲労によるか頭痛及び性格の変化(易怒性、興奮性)を訴えていて、外傷性てんかん発作に留意して抗けいれん剤を服用している。昭和六一年六月八日ころ症状固定し、左眼視力障害は一眼の視力が〇・〇二以下になったものとして自賠法施行令二条別表後遺障害等級八級一号、神経系統障害は局部に頑固な神経症状を残すものとして一二級一二号、併合七級に認定されている。

原告は、昭和五〇年ころから現在まで弁当屋の調理人をしていて、昭和五八年ころから「ひかり食グループ」の調理人として勤務し月収三〇万円から四〇万円(昭和五九年分の年収は三四八万四五二五円)を得ていたが、本件事故後体が疲れて仕事が出来ず、昭和六一年九月ころ辞めて、昭和六二年二月ころから鮫洲にある「久保田」という弁当屋でアルバイトをしているものの、原告の収入は半減している等の諸事情が認められる。

右によれば、原告は労働能力の五六パーセントを喪失したものと認められ、原告の本件事故当時の年収は三四八万四五二五円であり、症状固定時の三五歳から六七歳までの三二年間が労働可能年数とするのが相当であり、中間利息を年五分としてライプニツツ係数一五・八〇二六で控除すると三〇八三万六一五〇円が認められる。

6  慰謝料 一〇〇〇万円

原告の負傷内容、入通院期間、後遺障害の内容、程度、原告の職業、社会的地位、財産状態、生活程度、事故態様等諸般の事情を考慮して一〇〇〇万円が相当と認められる。

7  物損 三〇万一二七〇円

原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により購入後二〇日位で被害車を大破され、修理費三〇万一二七〇円相当の被害を受けたことが認められる。

8  以上の合計 四二四五万〇五四〇円

三  過失相殺

乙第三号証の一ないし三六、証人深田恵里の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場付近は、三田通り方面から魚らん坂方面に向かう通称桜田通り下り車線で、車道は上り下りとも二車線で、下り車線の幅員は第一車線は四・九メートル、第二車線は三・三五メートル、舗装され、平坦であり、見通しは良く、同所付近の制限速度は時速四〇キロである。本件事故当時の交通量は多くはなかつた。

原告は、昭和六〇年四月一〇日に原動機付自転車の運転免許を取得し、同年一一月一四日に自動二輪車(中型)の運転免許を取得しているが、原告には昭和六〇年五月二二日合図不履行、同年七月一〇日法定速度違反(二〇キロ未満)、同年八月二一日法定速度違反(二五キロ未満)の交通違反歴があり、また、本件事故当時に原告の運転していた被害車はホンダレブル二五〇CC、アツプハンドルのもので、本件事故の二〇日位前に購入したものである。

原告は、「加害車が被害車の走行車線に寄つて来るのがわかつたので、右にハンドルを切り、センターラインまじかあたりを走つた。加害車を気にしながら走つていたのですが、しばらくして、加害車が急に前に斜めに入つて来たと思う。」旨述べている。また、原告は、事故当時に酒臭が強く、目が充血していて、「前日(昭和六〇年一二月八日)に家でウイスキー水割り五杯位を飲んだ」旨述べている。

右の事情からすれば、原告は加害車の動静を認知したのであるから、その動静に注意し徐行するなど適切な運転方法をとつていれば本件事故は避け得たものといえるから、原告にも、認知・判断・動作につき不充分なものがあるので、道路状況、交通量、原告の運転歴、運転技術、運転態度等諸般の事情から過失相殺し、被告大野がソフトクリームを手にもつて運転していたこと等も考慮し、被告らは、原告の損害の八五パーセントにあたる三六〇八万二九五九円を賠償するものとするのが相当である。

四  損害の填補

自賠責保険から九七〇万九三〇〇円、労災保険から治療費として八八万五三四八円の支払いがあつたことについては当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第九号証によれば、労災保険から他に休業補償として一七万四一四四円が支払われていることが認められるので、この既払金合計一〇七六万八七九二円を、右損害額から控除すると二五三一万四一六七円となる。

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が、原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことが認められ、本件事案の審理経過、認容額等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害として二〇〇万円が相当と認められる。

六  よつて、原告は、被告らに対し、各自二七三一万四一六七円と本件事故の翌日である昭和六〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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